はじめに
Cisco 891FJとFortigate 50EとのIKEv2を利用したIPSecトンネル接続(IPSec VTIを利用)を行う方法です。
IKEv2はv1に比べ、複雑さが減ったらしいですが、まだポピュラーではない方法なのか設定方法のドキュメントはあまりまとまっていないように感じます。
相変わらずパラメータの数は多いです。双方でしっかり合わせていかなければ接続できません。
色々ハマった部分もあるのでまとめておきたいと思います。
なおここではIPv4接続を前提としています。IPv6でトンネルを張るには多少設定が異なる程度で、多分できると思います。(接続側がIPv6アドレスが降ってこないので検証できません)
シナリオ
Cisco 891FJとFortigate 50Eが以下の図のようにWANを介しIPSec 仮想トンネルを確立する。
待ち受け側(Responder,Cisco)はPPPoEによりISPからグローバルIPアドレスを取得し、WANとの通信が行える状態である。(IPoEでも可)
今、設定でファイアウォールのポートを開放し、接続を待つ。
2つのルータはIKEv2、PSK方式による認証を行う。
トンネルを確立後、2つのルータ間でOSPFによりルート情報の交換を行う。
接続側(Initiator)はIPアドレスが不定(Dynamic)なので、それを考慮した設定を行う。なおこの設定を行うことで、拠点間接続が増えるときにも役立つ。
前提条件
待ち受け側(Responder)はグローバルIPアドレスを持っていることが必須だが、ドメインを取得していれば固定IPである必要はない。(待ち受け側でDDNSを利用して、IPアドレスの登録を行うこと。私はmydnsを使ってます)
接続側(Initiator)はNATの内側にあってもよい(NATトラバーサル)。(ファイアウォールにより場合によってはパケットドロップが発生するかもしれない)
なお実際自分の環境では接続側はグローバルとプライベート間の境界ではありません。接続側もWANとの境界にある方が本当は望ましいのですが、私の管轄外ですのでどうにもできません。
VPN接続のための情報
2つのルータ間で絶対に合わせなければいけない設定です。適宜変更してください。
項目 | 値 |
---|---|
接続先 | example.com |
NATトラバーサル | 有効 |
IKEバージョン | IKEv2 |
PSK | hogehoge |
Phase1(Proposal)暗号化(encryption) | AES256(aes-cbc-256) |
Phase1(Proposal)認証(integrity) | SHA256 |
Phase1(Proposal)DH Group | 14(2048bit) |
ローカルID(Type:key-id) | vpn-fortigate |
lifetime(Phase1) | 86400秒(1日)(デフォルト) |
Phase2暗号化 | AES256(aes-cbc-256) |
Phase2認証 | SHA256(sha256-hmac) |
lifetime(Phase2) | 43200(12時間)(デフォルト) |
Cisco側のトンネルインターフェースIP | Unnumbered(Loopback1:100.100.100.100/32) |
Fortigate側のトンネルインターフェースIP | 172.16.5.2/32 |
OSPFエリアID | 0.0.0.2 |
OSPF Hello Interval | 10秒 |
OSPF Dead Interval | 40秒 |
PSKは実際は複雑で長めに設定しておくことを強くお勧めします。
Ciscoルータ側の設定
CiscoルータではVPN接続要求を受信したとき、設定が次の順に評価され、接続要求に応答します。(間違ってたらすみません)
この流れに合うように設定していかなければなりません。
Ciscoのドキュメントによれば、Phase1は"IKE_SA_INIT"、Phase2は"IKE_AUTH"という名前でデバッグログに現れます。そこからもその様子が見て取れると思います。
1.Policyに関連付けられたProposalを確認する。
2.Proposalで設定した暗号化方式と認証方式、DH Groupが要求に合うかどうか確認する。合致すればPhase1は完了
3.IKEv2 Profileの"match"句の設定より接続側が提供する情報(address/key-id/e-mail/FQDN)に合うProfileを探す。
4.3.で条件に合うProfileが見つかれば、設定された認証方式に従い認証を行う。
(ここからはPSK認証の場合)
5.Profile内で設定されたkeyringを参照する。
6.keyring内に設定された"match"句を確認する。合致すれば次へ。
7.PSKが合っているかどうか確認する。PSKが合致すれば、認証完了を通知する。
8.IPSec Profileの設定に従い、transform-setとikev2-profileを確認する。
9.transform-setの設定から、tunnelを張ることを決定する。
10.IKEv2 Profileに関連付けされたvirtual-templateの設定を参照する。
11.virtual-templateの設定をもとに、virtual-accessトンネルインターフェースを設定する。(Tunnelインターフェースではありません。Tunnelモードのvirtual-accessです。やってみて初めて知りました)
以下に必要なconfig例を示します。CiscoのConfig内で新たに定義されているものの名前は次の通りです。
項目 | 値 |
---|---|
Proposal名 | ikev2-proposal |
Policy名 | ikev2-policy |
keyring名 | keyring-fg |
keyring内のPeer名 | fortigate |
トンネルの設定テンプレートInterface | Virtual-Template3 |
IPSec transform-set名 | site-to-site-tunnel |
IPSec Profile名 | ipsec-fortigate |
Dynamic Map名 | vpn-dyn-map |
WANインターフェースに関連付けるCrypto Map名 | vpn-crypto-map |
OSPF router-id | 192.0.2.1 |
Config例
crypto ikev2 proposal ikev2-proposal encryption aes-cbc-256 integrity sha256 group 14 !(これがPhase1の暗号化方式の設定に当たります) ! crypto ikev2 policy ikev2-policy proposal ikev2-proposal !Proposalを紐づける必要があるのでProposalの設定が先です ! crypto ikev2 keyring keyring-fg peer vpn-fortigate identity key-id vpn-fortigate pre-shared-key local hogehoge pre-shared-key remote hogehoge !match identity の後には接続側が提供する情報 !(address/key-id/e-mail/FQDN)の種別を選びます ! crypto ikev2 profile ikev2-profile match identity remote key-id vpn-fortigate authentication remote pre-share authentication local pre-share keyring local keyring-fg virtual-template 3 !match identity remoteの後には接続側が提供する情報 !(address/key-id/e-mail/FQDN)の種別を選びます !ここで設定を"any"とすることもでき、keyringで判断させるのもありです !virtual-templateの後は数字を入力。 !virtual-templateをもとにtunnelを確立する ! crypto ipsec transform-set site-to-site-tunnel esp-aes 256 esp-sha256-hmac mode tunnel !(これがPhase2の暗号化方式の設定に当たります) ! crypto ipsec profile ipsec-fortigate set transform-set IPSec7 set ikev2-profile ikev2-profile ! crypto dynamic-map vpn-dyn-map 1 set nat demux set transform-set site-to-site-tunnel ! transform-setは複数設定可能。 !set transform-set <transform-set1> <transform-set2> ...のように記述 ! crypto map vpn-crypto-map 5 ipsec-isakmp dynamic vpn-dyn-map !"5"はシーケンス番号。任意の数字を指定 !vpn-crypto-mapは後でWAN側インターフェースに関連付ける ! interface Loopback1 ip address 100.100.100.100 255.255.255.255 ! router ospf 2 router-id 192.0.2.1 redistribute connected subnets ! interface Virtual-Template3 type tunnel ip unnumbered Loopback1 ip ospf hello-interval 10 ip ospf dead-interval 40 (ip ospf mtu-ignore) ip ospf 2 area 0.0.0.2 tunnel source Dialer1 tunnel mode ipsec ipv4 tunnel destination dynamic tunnel protection ipsec profile ipsec-fortigate !初めてinterface Virtual-Template3 type tunnelを実行する際には、"type tunnel"を忘れずに !トンネルのDestinationは接続側のWAN側IPアドレスとなる。 !接続側のIPは不定であるためにdynamicにする。 interface Dialer1 crypto map vpn-crypto-map ! ip access-list extended rules-ipv4 permit esp any any permit udp any any eq isakmp permit udp any any eq non500-isakmp !isakmp=500,non500-isakmp=4500 !(10/9追記)NATトラバーサルが利用されない場合、ESPを許可する必要があります。NATトラバーサルを必要とするクライアントはudp/4500を用います。抜けてたので修正。
Fortigate側の設定
Ciscoと呼び方が変わっている部分があります。また、設定は大体はGUIで可能ですが、一部の設定はCLIで設定する必要があります。
以下に設定後のConfigを示しますが、Configの部分以外に以下の設定が必要です。
・少なくとも1つ、VPNトンネルインターフェースが発信/着信インターフェースとなるポリシー。(定義しない場合はトンネルをつないでも通信しないので無意味と判断され行われません、デバッグログから)
・ドメイン名を利用して接続する際はDNSサーバの設定。
VPN→IPSecトンネルからトンネルを新規作成します。
「カスタム」を選び名前を入力します。こんな感じで設定します。
暗号化・認証方式は元々何個か入っているはずです。別に消さなくても接続できます。
ただ、実はこの設定だけでは足りない部分があります。CLIを利用し、さらに設定を行います。(以下参照)
具体的には「ローカルIDの種類」の設定です。接続の際に判別される部分になりますので注意してください。
設定が完了したら、インターフェースのIPアドレスを設定します。IPには接続側のトンネル内IPアドレスを入力します。
さらにVPNトンネルインターフェースが発信/着信インターフェースとなるポリシーを設定します。(設定しないと接続する意味がないとみなされ接続が開始されません)
Fortigate Config例
FortigateのConfig内で新たに定義されているものの名前は次の通りです。
項目 | 値 |
---|---|
インターフェース名 | site-cisco |
phase1-interfaceの項目名 | site-cisco |
phase2-interfaceの項目名 | site-cisco |
OSPF router-id | 192.0.2.2 |
恐らくGUIで設定するとすべての名前が同じになるはずです。
尚、wan1がwan側インターフェースです。
(ポリシーの部分は載せていません。)
config system interface edit "site-cisco" set vdom "root" set ip 172.16.5.2 255.255.255.255 set allowaccess ping set type tunnel set remote-ip 100.100.100.100 255.255.255.255 set interface "wan1" next end config vpn ipsec phase1-interface edit "site-cisco" set type ddns set interface "wan1" set ike-version 2 set peertype any set net-device disable set proposal aes256-sha256 (複数記述可能) set localid "vpn-fortigate" set localid-type keyid (CLIのみ設定可能、GUIだけで設定するとFQDNと判断されます) set dhgrp 14 set remotegw-ddns "example.com" set psksecret hogehoge next end config vpn ipsec phase2-interface edit "site-cisco" set phase1name "site-cisco" set proposal aes256-sha256(複数記述可能) set dhgrp 14 set keepalive enable next end config router ospf set router-id 192.0.2.2 config area edit 0.0.0.2 next end config ospf-interface edit "site-cisco" set interface "site-cisco" set dead-interval 40 set hello-interval 10 (set mtu-ignore enable) set network-type point-to-point next end config network edit 2 set prefix 172.16.5.2 255.255.255.255 set area 0.0.0.2 next end (config redistribute "connected") (set status enable) (end) end
他に気を付けたい部分・Note
トンネルインターフェースではサブネットは定義されません。
Cisco側でVirtual-Templateを設定する際は、ip unnumberedを利用しないとIPアドレスが上手く設定されません。(テンプレートなのでむしろIPアドレス設定がコピーされる方が困るのでしょうか)
また接続後Virtual-Accessが生成されますが、Virtual-Accessを設定するためにはVirtual-Templateをいじる必要があります。ただトンネルが確立しているとVirtual-Templateはロックされてしまうので、Virtual-Templateの設定は接続が1つもないときに行わなければなりません。
Ciscoルータ側の設定ではコマンドの省略をしがちですが、Virtual-Templateは"virtual-te"まで入力してください。viだけ入れるとvirtual-accessと認識されます。
OSPFについてはFortigateがIPアドレス形式のみ設定できるので、それに倣ってCiscoもIPアドレス形式にしています(CiscoでもIPアドレス形式を使って設定可能です)。
OSPFパケットが来ているのにルートが登録されない場合は、mtu-ignoreやredistributionの設定を行えば多分うまく行くと思います。
最後に
keyringを追加するなどすれば、さらに拠点が増えても接続できるようになると思います。私はこれ以上拠点間接続を増やせるのか実験できる環境がないので、本当にできるかどうかは分からないですが参考にはなるかと。
接続できるまではdebugログとの長い戦いでした。